“ロマンチックへ連れてって・・・”
などと、タイトルをつけてしまったものの、ホタルは、本当にロマンチックなのだろうか?
光を発しながら舞う姿が幻想的だというが、結局のところ“虫”。
虫の大群が飛んでいるのかと思うと、虫嫌いの私としては、想像するだけで鳥肌ものである・・・。
5月15日(火)。ここは、板橋区ほたる飼育施設。
ゲンジボタルとヘイケボタルの飼育と研究にかけては日本一とも言える板橋区自慢の施設だ。
ここに、“ホタル博士”がいると聞き、話を伺いにやって来た。
それにしても、ホタル博士・・・? 地味ぃ〜なオッサンが出てくるのかな・・・。
えっ!? ここ??
やたら年期の入った施設だけど、
ホントにホタルいるの??
「こ、こんにちは〜」
こちらが、ホタル博士の阿部さん。
やぁ、どーもどーも。阿部です。
あっ これは、ホタル照明ね。
えぇぇぇぇっーーーーー!?
この人が、ホタル博士?
ガングロ&ロン毛の茶パツぅ〜!?
阿部さんは、とっても熱〜い雰囲気のお方。
これは、おもしろい話が聞けそう・・・。
「じゃぁ、早速、ホタルさんについて説明するね。
まずは、“せせらぎ”から案内するよ」
ホタル“さん”か・・・。
ここが、ハウス「せせらぎ」。ホタルが生息する環境をハウスの中に再現している。
真ん中には、小川が流れている。きれいな水を循環させているのだそう。
ホタルが生息する川の上流にいる魚“イトウ”が泳いでいたり、
ヨモギやカヤツリ草、トクサ、セリなど、ホタルが好む草もわんさかと生い茂っている。
時間ごとに雨も降る仕組みになっているのだ。
ホタルさんは、やわらかくて湿り気のある
弱アルカリ性の土じゃないと生息しないんだ。
それから、卵を産み付ける水辺の苔も必要だよ。
現在、ホタルは、幼虫が上陸して、土の中にもぐっている頃。
土の中で“土繭”をつくっているのだそう。
ゲンジボタルなら40日間、ヘイケボタルなら20〜30日間くらい土繭で過ごし、サナギになるそうだ。
「ホタルさんは、卵の時も幼虫の時もサナギの時も光るんだ。
だから、この時期でも、夜になるとこの中は、ホタルさんの光でとてもきれいなんだよ」
ホタルって、本当に神秘的な虫なのね・・・。
ホタルは、カワニナなどの巻貝を餌にしている。左上がカワニナ。
貝の中に頭を突っ込んで、消化液を出しながら食べるのだとか。
右上は飼育室で見せてもらったゲンジボタル。メスのほうが大きい。
ホタルを裏返すとこんな感じ(左下)。黄色い部分が発光器。
オスは発光器が2本。メスは1本だ。
ちなみに、右下はホタルの幼虫。正直、キモチワルイ・・・。
「ホタルさんは、求愛のために光っているんだよ」
えっ!?
ホタルの光というのは、人間で言えば「言葉」と同じもの。それも「愛の言葉」なのだそう。これはロマンチック!
光を発する虫はほかにもいるけれど、それは全て刺激光か威嚇光、求愛光として発しているのは、ホタルだけだそうだ。
ホタルは、メスに比べてオスのほうが3〜5倍も多い。
でも、オスにはメスを選ぶ権利がないのだという。
だから、オスはメスにアピールするために必死で光るのだ。
いやぁ〜 ホタルのオスは大変だよ。
命がけで光ってメスにアピールするんだから。
俺は人間で良かったね・・・。
撮影:阿部宣男
ホタルの命は、だいたい7日間くらい。はじめの5日は、たいてい葉の上で静かにじっと過ごす。
もうその頃には、ホタルは、ものすご〜く疲れているのだが、
寿命が尽きる最後の2日間で必死に光るそうだ。
オスは、メスボタルに自分を選んでもらおうと、光を発しながら飛び立ち、一生懸命に舞う。
よぉ〜し。
これから、メスにアピールしにいくぞ〜。
メスボタルは、葉の上で弱い光を発しながら
じっとその様子を見ている。
そして、メスボタルは自分の相手を見つけ出したとき、
今度は強い光を発して合図を送るのだ。
互いの気持ちが通じ合った時、オスボタルは、
葉の上で待っているメスボタルのもとへ行こうと、
羽をたたむ。
そうすると、オスボタルは、
ストーンとそこへ落ちていくのだそう。
「たくさんいるホタルの中から、
一匹のオスボタルとメスボタルが、
光の合図によって導き合うなんて、
ロマンチックでしょ?」
撮影:阿部宣男
ボクたち、晴れて夫婦になりました。
親になれるホタルは、1%にも満たないんだよ。
しかし、ホタルは7日間の命。そこで結ばれたホタルは、子孫を残し、そして死んでいくのだ。
ちなみに、選ばれなかったオスボタルたちはどうなるのだろう?
次のメスボタルに選んでもらうために、最後まで必死に光るそうだ。
とはいえ、当然、選ばれないオスボタルがたくさんいるわけだから、ホタルの世界は厳しくもある。
「でもね、ホタルさんたちの間には、嫉みによる争いごとなんか一切ないんだよ」
365日、ホタルから学ぶことばかりだと語る阿部さん。ホタルは、人間が忘れてしまったものを持っているように感じるのだとか。
聞けば、阿部さん、
若い頃は相当やんちゃで、元暴走族なのだそう。
この板橋をバイクで走り回り、
好き勝手にやっていたそうだ。
バイクは最高だぜ。
そんな阿部さんは、区役所の職員となり、
水族館、動物園を経て、温室植物園勤務へ。
そこで、農薬を使わない植物園づくりに成功した
阿部さんは、かつてホタルがたくさん生息していた
板橋区にホタルを復活させる役割を担うのだ。
もともと好きではなかったホタルに
携わらなければならなくなり、阿部さんは、
ホタルについて独学で猛勉強したそうだ。
そして、人工飼育に成功。「温室植物園にホタルがいる!」と話題になったのだ。
しかし、そんな矢先、突然、区議会で「温室植物園」の閉鎖が決定。
阿部さんは、なんとかホタルを救い出そうと、現在の施設へホタルを移動させていたのだが、取り壊し工事が始まってしまった。
慌てて植物園へ急ぐ阿部さん。すると、ホタルがいた場所の植物が根こそぎ引き抜かれ、土と一緒に山積みに・・・。
その中には無数のさなぎも埋もれていたのだ。
「人間は、
なんてむごいことをするんだ・・・」
怒りと悲しみに呆然とする阿部さんの目の前に、
一匹のホタルが、す〜っと飛んで、
フッと姿を消したのだ。
こんなひどい仕打ちをする人間に対して、
それでもなお光を見せてくれるホタルの心に
胸を打たれ、阿部さんは、
いつまでも涙が止まらなかったという。
この時から、阿部さんは、「ホタルさん」と
敬称をつけて呼ぶようになったそうだ。
そんな阿部さんも、今やホタルの第一人者。
ホタル博士にまでなったのだ。
「ホタルに接しているとホタルがメッセージをくれるんだよ」
阿部さんがホタルから教わったことは、日本人の心、謙虚さ、憂いさ、愛しさ、そして決して争わない心。
ホタルさんて素晴らしい・・・。
ワタシもホタルさんを見習おう・・・。
この数時間で、虫嫌いがなおるわけではない。
でも、声を大にして言いたい。
ホタルさんは
ロマンチックだーーー!!!
ホタルさんの光は、人間を癒してくれる
効果もあると注目されているそうだ。
しかし、癒し効果をもたらす光とは、
“求愛光”のみの話。
その光、見てみたい・・・。
今年は、夜空を飛び交うホタルさん達に会いに行こう。そう思うのだった。
【板橋区ほたる飼育施設情報】 >>スポット情報へ
撮影:阿部宣男
−夜間公開実施−
1年に1度、ハウス「せせらぎ」で繰り広げられるホタルの愛のショーを見学するチャンス!
〔日程〕
ゲンジボタル:6/15(金)、16(土)、17(日)
ヘイケボタル:7/20(金)、21(土)、22(日)
※各回いずれも18:30〜整理券を配布
http://www2s.biglobe.ne.jp/~HOTARU/
阿部宣男(あべのりお)
板橋区立エコポリスセンターホタル飼育施設長。
板橋区内の水族館、動物園勤務を経て、「温室植物園」の担当となり、
無農薬生態園をつくることに成功する。1989年よりホタルの飼育を開始。
1992年に「ホタル飼育施設」担当に。独学で研究を続け、
ホタルの人工飼育に成功した日本のホタル飼育の第一人者。
茨城大学大学院理工学研究科博士課程終了。理学博士。
今年でホタルの世代交代は18代目。
「ホタルが棲める環境は、我々人間にとっても素晴らしい環境なのです。
ぜひ、ホタルとの共存について考えてみてください。
そして、鑑賞の際は、ホタルさんは、強い光を嫌うので、
車のヘッドライトを消すとか、懐中電灯やカメラのフラッシュを控えるなどの配慮をしてください。
そうすれば、こうしたちょっとしたやさしさに、ホタルさんはこたえてくれますよ」
イラスト:原口美和 http://www.miwah.com/b/